「人工地震」というと、東日本大震災などのような「陰謀論」になりがちだが、韓国の地熱発電事業が原因で被害地震が発生したことを政府が認めて、賠償責任が命じられたという驚くべき事案が発生した。
■浦項地震
順を追って説明すると、まず原因となった韓国の地震について。
韓国南部、慶尚北道の浦項(ボハン)市で、ちょうど6年前に下記の地震が発生した。
2017/11/15 05:29UTC(14:29現地時間):韓国・浦項地震(浦項市)、M5.5、深さ7km
日本的感覚では、M5.5の地震など大したことがないと思いがちだが、プレート境界から遠く大地震が日本よりもずっと少ないこの国では、日本の住宅ほど耐震性は高くなく、大きな被害地震になり得る。
この地震では、港湾都市である浦項市のインフラに重大な損害をもたらした。
犠牲者はいなかったが、負傷者82人の人的被害が発生し、千人以上が自宅を離れて避難した。
そして2016/09/12の慶州地震(M5.8)と並んで韓国史上最大規模の地震だった。
■陰謀論ではない方の
「人工地震」というと、すぐに「陰謀論」と考える人は、その分野に関する十分な知識がないと、そうなってしまう。
2018年に米「サイエンス」誌に発表された論文によると、人間の活動が原因で起きた地震は多数あり、その実例のデータベースを作成している。
この論文によれば、浦項地震は、付近の地熱発電所から地中に水を注入したことが直接的原因だとわかった。
つまり、数多くの「人為的地震」(人工地震)の一つだったということだ。
いちいち書くまでもないが、「サイエンス」誌は陰謀論的なトンデモ説を掲載する筈がない。
論文によると、1979/10/15にメキシコのバハ・カリフォルニアで発生した地震(M6.6)も、地熱発電が原因だったという。
■政府に賠償命令
浦項地震に話を戻すと、浦項地震の震源は、政府の「地熱発電商用化研究開発事業」として推進された地熱発電所から600mの近距離だった。
当時、2016年6月に試験発電を開始し、商業稼動まで1カ月を控えていた時に起きた地震だった。
当時、政府調査団は「地熱発電のために注入した高圧水が知られていなかった断層帯を活性化し、地震を誘発した」との結論を下した。
この地震によって被害を被ったことで、浦項市民が国家とポスコホールディングス、ネクスジオなどの企業5社を相手取って損害賠償訴訟を起こした。
訴訟人団は2020年末までに5万人あまりに増えた。
最終的に、浦項市民の10%が集団訴訟に参加したことになる。
11/16に、韓国の大邱(テグ)地方裁判所は、一審判決で「国家は原告に慰謝料を1人当り200万~300万ウォン(約23万円~35万円)ずつ支払わなければならない」と命じた。
韓国メディアによると、国の賠償責任を認める判決が出たことで、訴訟に参加していない市民によってさらに提訴が行われるとみられるという。
思わず「Power to the people」という言葉が浮かんだ。
このような領域は「タブー」となっていて、そのために科学者がこの件に関連した発言をする場合は匿名で行ったりする。
これが日本ならば、2代前の首相の代からのアレで、このような判決も「はじめにありき」になっていただろうか。
もっとも、まだ一審判決なのでこれからどうなるかが問題だが、このあたりは隣国が日本よりも勝っていると思えてくる。