2016年4月16日に発生した熊本地震から今日で7年になり、様々な報道が為されているが、連載4回目として、熊本地震のような大きな地震が起きても、M6.5の地震でも「前震」の場合があり、また同規模が更に続く「双子地震」の可能性もあり得るのだということを常に想定しておくことが重要となるということを書くことにする。
■大きな地震が「前震」だった例
・最近は誤解を避けるためもあって「余震」の言葉を使わない傾向にある。
「前震」というのも、定義がやや曖昧なところがあり、気象庁では既に前震・本震という定義を無くしている。
ここでは、厳密な定義は置いておくことにして、大きな地震の前兆だったものも含めて扱うことにする。
■兵庫県南部地震
まずは、1995/01/17の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災、者・行方不明者6,437人)のケース。
下記のマップは、この本震の1ヶ月前以降に周辺で起きていた有感地震を示す。
これらは通常の前震としては期間が長すぎるが、このような地震が起きていたという参考までに示している。
実際、本震の前日に4回の「前震」とされる地震が起きていたとされている。
だが、気象庁の震度データベース検索で探すと、上記マップのM3.7の地震しか見つからない。
この地震から、その後3回の前震が続いたとされている。
このM3.7の前震は、本震とほぼ同じ位置で起きていた。
現在の地震学では、ある地震が発生して、それがその後に発生するより大規模な地震の「前震」であるとは断定できないとされている。
この地震の際にも、M7.3の地震が発生した後で解析したところ、前日に4回の前震が起きていたと判断された。
■熊本地震
7年前の熊本地震の場合、本震の1ヶ月前以降4/13までに周辺で起きたM0.0以上の有感地震を検索すると、以下のようになった。
このように、本震の3週間ほど前から10日前までに、本震の震源の北方でM2クラスの地震が4回起きていた。
また、本震の約2週間前の03/31には、福岡県筑紫地方と熊本県阿蘇地方でM2クラスの地震が3回起きていた。
これらのうち、筑紫地方の地震を除いて熊本県の地震は、本震の前兆的地震だったといえそうだ。
熊本地震の場合、「前震」であるとされる地震は、本震の2日前の4/14から発生していた。
本震までの3日間にM0.0以上の地震を検索すると、大変なことになる。
熊本県熊本地方から北東の大分県にかけて、有感地震がなんと835回も起きていた。
これでは訳が分からないので、同期間でM5.0以上に絞ってみると、下記のようになる。
熊本地震の場合、特殊な部分としては、下記の図のように、14日の前震は日奈久断層帯の北端部の活動で、16日未明の本震は布田川断層帯の活動によるものとされることだ。
この隣接する2つの断層帯が連動することで連動型地震が発生したと考えられている。
■3.11の前にも
前述のように、ある地震が、その後に続く大地震の「前震」であるかどうかは、その大地震が起きてみないとわからない。
だが、ある地域で有感地震が続いた時には、それらが起きた時に小規模で良かったと安心するだけでなく、「もっと大きな地震が続くのかも…」と常に想定しておくことが大切だ。
熊本地震の前震の際のように、たとえM6クラス位の大規模な地震が起きた際にも、「これで終わり」とは思わずに、より大規模な「本震」が発生することを常に考えておかなければならない。
今回は詳説しなかったが、12年前の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の2日前にも三陸沖でM7.3、最大震度5弱の前震が発生していた。
M9クラスの巨大地震では、M7クラスの前震もあり得るのだということが教訓として得られただろう。
■大きな地震が「双子地震」だった例
次に、大規模な地震が起きた後で同規模の地震が続く「双子地震」について。
例として、19世紀の南海トラフ巨大地震を挙げる。
◎安政の南海トラフ巨大地震
1854/12/23 09:30頃:安政東海地震、M8.4、犠牲者2千~3千人、津波。
1854/12/24 16:20頃:安政南海地震、M8.4、犠牲者千~3千人、津波。
このように、M8クラスの巨大地震が1.5日の間隔を置いて発生した。
どちらが前震でも余震でもなく、典型的な双子地震だった。
◎福島県沖地震
次に、2021年と2022年に2年連続で発生した福島県沖地震。
そう書くと、「えっ?」と思われるかもしれない。
東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授(地震地質学)は、この2つの地震は規模や深さが「ほぼ双子のように同じ」と指摘する。
2021/02/13 23:07:福島県沖地震、M7.3、最大震度6強、深さ55km、犠牲者3人。
2022/03/16 23:26:福島県沖地震、M7.4、最大震度6強、深さ57km、犠牲者3人。
「ほぼ」が付くものの、発生日時が1年ほど離れた場合でも双子地震と呼ばれる可能性があるということになる。
2021年の地震は東北地方太平洋沖地震の「余震」とされていたが、その後に気象庁は「余震」という表現では今後は大地震が起きないと誤解されかねないとして、この言葉を使わないことになった。
このように、「双子地震」の表現を用いる地震でも、安政東南海・南海地震のように翌日に起きるものもあれば、福島県沖のように1年経ってから起きるものもあるということだ。
いつも書いていることだが、大地震に限らず天災に教われてから「こんなことが起きるとは夢にも思わなかった」ではなく、大地震はどこでも起こり得る日本という国に住んでいる以上は、夢にも思わなければいけないということだ。
言い方を変えれば、正常性バイアスにとらわれずに、地震や水害などの自然災害は、この国ではいつでも起こり得るという意識を忘れずに、常に防災意識を高めて日々を過ごすことが大切だろう。
※久々に阪神・淡路大震災のことを書いて、そういえばあの本はどうなったかなと、Amazonで『前兆証言1519!―阪神淡路大震災1995年1月17日午前5時46分』を見ると、なんとまだ千円以下の古書がある。
歴史に残る超貴重なデータ集で、どういう地震前兆現象があるかもわかる本なのに。