池谷元伺著『大地震の前兆 こんな現象が危ない』は、私が「バイブル」とする本で、18年前に出版されたこの本との出逢いが私の人生を変えた…というと言い過ぎだが、それに近いものがあり、古書が入手困難になる前に再度紹介しておく。
■『大地震の前兆 こんな現象が危ない』
『大地震の前兆 こんな現象が危ない』は、池谷元伺・大阪大学名誉教授(1940/05/17-2006/03/14、故人)によって2000/11/01に青春出版社から発売された。
私がこの本と出遭ったのは、出版から4年ほど経った2005年1月で、過去のブログ記事を探すと、その頃に購入したようだ。
奥付を見ると、2000年に出版されたこの貴重な本が、まだ一度も増刷されていなったことが意外だった。
一人でも多くの人たちに知らせたいとの想いで、何度かブログや書籍で紹介してきた。
著者の池谷元伺氏は、宇宙地球科学専攻の科学者だった。
この本では、動物、気象・家電・植物などに見る前兆現象を紹介していて、それらの多くが電磁波で説明ができると主張している。
国家による「地震予知」は頼りにならないから、民間のわれわれが自然災害から自分たちの命を守らなければない。
本書は、新書版という量的な制限の中で、よくもこれだけ書いたと思うくらい様々な宏観異常現象などの地震前兆現象を紹介している。
もちろん理工学者のフィルターを通したものであり、いい加減な内容ではない。
以降は、過去のブログ記事を手直ししながら本書を紹介する。
■地震前兆現象の例
池谷氏は、地震の前兆現象の多くは、地震の発生に先立って生じる電磁パルスで説明できると主張している。
この本では、動物、植物、気象、家電製品などに見られる異常な前兆現象を豊富な実例をもとに紹介し、そのような現象がどうして地震の前兆として発生するのかを、わかりやすく説明している。
以下に、特に重要だと思われるところをいくつかピックアップして紹介する。
・阪神・淡路大震災の前に、大阪府のいくつかの水族館では、直前の半月間で10匹の魚が水槽から飛び出したり、1週間前からナマズの類が暴れ出した。
・動物病院長の話では、阪神・淡路大震災の前に20%のイヌと25%のネコが異常行動を示していた。
・阪神・淡路大震災の前日に、仏壇のロウソクに火をつけようとしたが、マッチの火が逃げてしまった。
「神前、仏前のロウソクの炎が弓なりに曲がるか砕けると地震」ということわざがある。
・台湾大地震の直前に、多くの地域でミミズの大群が地中から現れた。
・三陸沖地震(1933年)の前に、ウナギの大群が海岸に現れた。
→池谷氏らの実験の結果、ウナギは電磁波に非常に敏感であることがわかった。
・米国では、行方不明になった犬や猫を探してほしいという新聞広告が、地震の前に増える。
・中国では、地震の8日前にインコが騒ぐという。
・中国・唐山地震(M7.5、犠牲者24万2,000人)の前夜に、養鶏場で1000羽のニワトリが騒ぎ始めた。
ニワトリが夜に鳴いたら要注意。
・カラスは大勢で早口でギャーギャーまたはグヮーグヮーと鳴きわめき、騒いだり、いなくなったりする。
・中国・海城地震の前に、雪や氷で覆われた地表に蛇が現れ、凍え息絶えていた。
また、カニが民家の屋根の上に上がっていた。
・阪神・淡路大震災の前の動物園では、アシカ、ワニ、パンダ、オウムなどの異常行動が見られた。
・トルコ・イズミット地震の前後に、クラゲが大量発生した。
・地震の前に魚類やカイコが整列行動をとる。
→実験によって確認。電場に対して垂直に並ぶ(体内に流れる電流が低減するため)。
・竜巻雲、蛇状の雲、うろこ雲、筋状の雲、放射状の雲や地震前夜の発光が地震の前兆現象であることは、電磁波の増加によって説明できる。
・地球の表面を伝わる電磁波ならば、震源から1000キロ離れたところでも、干渉し合って縞状の地震雲をつくり得る。
・冬の日本海上には北西から南東へ向かう筋雲が現れやすいが、晴天の日に筋雲や帯状の雲が現れたら、地震雲と疑う必要あり。
・地震の前に、家電製品のスイッチが勝手に入ったり、リモコンが不調になったり、蛍光灯が薄赤く灯ったり、テレビ・ラジオのノイズが増えたり、パソコンが誤動作することは、電磁波パルスによって説明でき、また池谷氏らの実験によっても確認されている。
・中国では、地震の10時間前にオジギ草の葉が昼間に閉じた。
こうした植物も電磁波に敏感であることが実験で確認された。
・阪神・淡路大震災の前に、ユリの花が風もないのに微妙に揺れていたり、椿の花が300個以上の花をつけたという報告あり。
■情熱をもった科学者
池谷教授によると、地殻が割れる岩石破壊によって電磁波が発生して、地表に現れた電磁波パルスを動物や植物は敏感にキャッチするという。
一般に、電磁波による前兆現象は地震発生の6〜9日前にピークとなった後でいったん沈静化し、地震発生の1〜2時間前に二番目のピークを迎えるという。
地震雲については、たしかに地震の前兆現象としての電磁波パルスによって発生するが、防災のためには使いにくい対象であると書いている。
以下に、この本で池谷教授が熱く記している言葉を引用する。
動物の異常行動やその他の前兆を調査し、地質学の立場から経験式を導いてきたのは、最近も『予知と前兆』という本を出版した力武常次教授ぐらいである。動物の異常行動などを研究すると馬鹿にされるからと、現役の地質学者は誰も研究していない。
−『大地震の前兆 こんな現象が危ない』、池谷元伺著、青春出版社より
まずは可能ではないかと夢を持って少しでも被害を減らす方法を考え、人事を尽くしたなら、あとは神の領域である。
−『大地震の前兆 こんな現象が危ない』、池谷元伺著、青春出版社より
阪神・淡路大震災や新潟県中越地震で、多くの人々の命が犠牲になっているというのに、日本の他の科学者たちや政府は何をやっているんだと言いたくなる。
先駆者というものは、この池谷教授のように、時によってはまわりの声に耳を貸さずに自分の信念を貫く人のことだろう。
地震の前兆現象について関心がある人、詳しいことを知りたい人には必読の本だ。
その後、池谷氏による『地震の前、なぜ動物は騒ぐのか』(NHKブックス、1998年)を購入した。
今回紹介した本は、実はこの本の内容が一般の人々にとってちょっと難解だという声があったために、もっとわかりやすい本をということで書かれたものだという。
確かに、誰が読んでもわかりやすい内容となっている。
■絶版本
池谷元伺名誉教授は、2006年3月14日、心不全のため逝去された。
享年65歳だった。
今の私が66歳で、それよりも若くして亡くなられたことは、非常に残念でならない。
地震を研究される科学者として非常に先駆的存在で、その遺志を継ぐ想いで私はこの研究を続けている。
本書の改訂版『【緊急改訂】大地震の前兆 こんな現象が危ない』は、2005/08/25に発行されたが、Amazonを見ると、私はこの本を3回も購入していた。
すでに絶版で、Amazonでは古書が数冊あるが、古書業者がこの本の貴重さを認識していないというか、今ならばまだ手が届く価格で売られているものが多い。
もっと理詰めでアカデミックなアプローチの本をという方は、こちらを。