今日でスマトラ島沖地震から18年経つが、この時に起きた津波で22万人もの命が奪われた。
その7年後に起きた東日本大震災の津波でも、2万2千人の犠牲者・行方不明者が出てしまったということは、やはり十分な学びが無かったという面もあっただろう。
自分の研究から導き出した『津波から生き残るための10則』も再度周知する。
■タイの奇跡
この18年前の津波で、私の妻サルちゃんの出身国タイでは、非常に不思議なことがあった。
この巨大地震の地震と津波により、タイでは4812人の犠牲者、8457人の負傷者、4499人の行方不明者が出た。
これは同国の災害史上最悪の津波被害となった。
特に甚大な数の犠牲者が出たのは、リゾート地のカオラックで、公表は3950人だったが、実際は4500人を超えていたとも言われる。
ところがプーケット島には、犠牲者ゼロの地域が2カ所あった。
プーケット島は南北に40キロと細長く、面積は淡路島に近い。
島の南端に位置するラワイ地区には、モーケン族という海洋民族が住んでいる。
タイやミャンマーに住む海洋民族で、「海のジプシー」と呼ばれる。
彼らは、ほぼ1年中を海上で過ごす。
もともと国籍がなく定住地をもたないが、タイの定住政策によりプーケットやスリン諸島で暮らすようになった。
■モーケン族の行動
2004年12月26日、朝7時45分に起きたスマトラ島沖地震では、地震発生から20分ほど経って、潮が異常に引いていることをモーケン族たちは見逃さなかった。
彼らの間には津波の前兆に関する言い伝えがあり、潮の満ち干の度合いについて正確な知識も具えていた。
そのため、すぐに危険を察することができた。
先祖からの言い伝え通り、モーケン族はこれを津波の予兆と判断して、集落の全員を村の高台へと避難させた。
そして地震発生から2時間30分後となる10時半ごろ、タイ各地に津波が襲った。
タイ人や、リゾートビーチに休暇で訪れていた欧米人たちは、大地震や津波と普段は無縁という人々も少なくなかった。
特に白人たちは、生まれて初めて見た津波が、どういうものかを正確に把握する術がなく、呆然と見ているしかできなかった。
最高20m近くに達した大津波によって、タイだけで6千人近い人々が犠牲になった。
しかし、モーケン族の1200人の村民は、全員が高台に避難していたため、1人の犠牲者も出なかった。
その中には、身体障害者や全盲の人も20人ほど含まれていた。
だが、人々が助け合い、全員が無事だった。
■10歳の少女の気転
プーケット島の北端には、マイカオ海岸というリゾートビーチがある。
高級ホテルも立ち並び、日本人を含めた外国人観光客に大人気の場所だ。
ティリー・スミスという当時10歳の英国人少女が、家族とともにマイカオ海岸のホテルに滞在していた。
地震発生の瞬間、ティリーは7歳の妹と一緒にビーチで遊んでいた。
そして海に異変が生じたことに気がついた。
海岸に寄せる波が白く泡立ち、そして潮が引いていったのだ。
彼女はとっさに、2週間前に英国の学校で習ったことを思い出した。
「潮が海岸線から引いていき、白い泡が立つ現象は津波の前兆」
先生から教えられていたことが、目前で起きていた。
彼女は両親のもとへ走ると、「津波が来るから逃げましょう」と伝えた。
その緊迫した態度から両親は事の重大さを悟り、津波が来ることを周囲の人々やホテルの管理人に伝えた。
そしてティリーの家族が異変を伝えた人々は、被災することなく全員が無事だった。
ティリー・スミスさんは、現在は28歳くらいになっている。
最近はメディアに登場しないようで、下記の写真は2014年頃、20歳頃のもの。
■大地震・大津波に対する「幼児的態度」
前述のモーケン族たちは、言い伝えによって「当たり前のこと」をしたに過ぎないと思っているだろう。
だが、日本で同様の津波が襲っても、その「当たり前のこと」をしない人々が多い。
そして、多くの人々が犠牲になってしまう。
本当に残念でならないのは、大地震や津波などの大災害に対する多くの日本人の態度だ。
災害の被害に遭った人々が口々に語るのは、「こんなことになるとは夢にも思っていませんでした」ということ。
いや、夢にも思わなければならないのだ。
日本人として、絶対に。
災害でも事件でも事故でも言えることだが、日本人の多くは、「悪いこと」を考えない。
「縁起でもない」などといって、考えることから逃げ回る。
いわゆる「正常性バイアス」つまり「正常化の偏見」に捉われてしまっている。
この道の研究を長く続けてきた人間として、言っては悪いが、現実を客観的に見ようとしない「幼児的思考形態」と言わざるを得ない。
■津波から生き残るための10則
津波から自分や大切な人の命を守るために、守るべき10の鉄則を挙げておく。
以前に私が考えたものだが、発表の度に多少変更している。
【津波から生き残るための10則】
1. 大地震の後で、潮が異常に引いたら津波が来る前兆。
2. 引き潮の前兆がなくても、地震が起きたらいきなり津波が襲って来ることもある。
3. 津波が起きた時のため、地域の避難場所を日頃から確認しておく。
4. 津波からの避難は、水平方向ではなく垂直方向(高台や高い建物の上など)。
5. 避難のために家の外に出る際には、家財道具や貴重品を諦める。命よりも貴重なものはない!
6. 身体が不自由な人や、高齢者を避難させる手法も日頃から計画しておく。津波シェルターなどもある。
7. 車で逃げるな、足を使え:2016年11月22日の福島県沖地震(M7.4)でも、車で津波から避難しようとして渋滞に巻き込まれた人々が多かった。
8. 避難所を過信するな:津波発生時、真っ先に避難する一次避難所が絶対に安全とは限らない。3.11では、陸前高田の一次避難所だった体育館が津波に呑まれ、約80人が犠牲となった。
9. 皆が逃げなければ、自分が声を上げろ:特に日本人の間では「同調バイアス」と呼ばれる集団心理が働き、皆が逃げなければ自分も大丈夫だろうと思ってしまう人が多い。本当に危険ならば、自ら「逃げろ!」と声を上げ、周囲の人々に緊迫感を呼び起こさせることが大切。
10. 周囲の人々の根拠のない「大丈夫」は信じるな:人間は誰にでも「正常性バイアス」という心理状態があり、大災害に瀕しても「自分は大丈夫」と思い込むことが多い。本当に災害から生き残るためには、現状を客観的に把握・判断して、必要ならば1人でも避難することが大切。
■津波リスクが高い土地
前述のような【津波から生き残るための10則】を常に念頭に置いて生活しなければならないのは、まず誰よりも、津波に襲われる可能性がある土地に住んでいる人々だ。
たとえば、スマトラ島沖地震津波の時のように、ヨーロッパの白人の人々が、自国では海沿いに住んでいるわけではなく、絶対に津波に襲われる可能性がない人々も多い。
この時の彼らのように、観光で訪れた地で津波に遭うこともある。
だが、通常は何と言っても、特に日本の海沿いに住む人々が津波被害のリスクがある。
たとえば、ここ小平市は東京湾から25km以上離れていて、津波に襲われる可能性は0に近い。
津波が遡上する恐れがある大きな川も、近くにない。
そのような土地に住むのが一番良いが、誰もがそうできるわけでもない。
リスクが高い土地に住む人ほど、日々の防災も含めて真剣に考えるべきテーマだろう。
※今回のように大雪でも停電になればPCも使えなくなるが、これならばノートPCを4回充電できる。