この記事は、2019/02/17の『探求三昧2』に投稿した記事に大幅に加筆訂正して再掲する。
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「赤とんぼ群れ出(い)ずるは地震の兆し」「ヘビ、藪(やぶ)に集まるときは地震あり」
こうした先人が遺した動物の異常行動や自然界の異変などに関する言い伝えを注意していれば、大地震や津波など自然災害の前兆を事前察知して命が助かるかもしれない。
そういう趣旨の記述が2019/02/16の東京新聞のコラム「筆洗」で書かれていたが、このような伝承の類とその情報源を紹介する。
■東京新聞「筆洗」
冒頭に紹介した言い伝えで始まる「筆洗」の記述では、そのようなことわざが全国にあることを紹介した後、「動物たちに比べれば、人は残念ながら、迫り来る災害などを直感する力に乏しい。だから目を凝らしてきた」と続く。
人間たちが本当に「直感する力」に乏しいかどうかについて言えば、いわゆる「体感」する人たちのことを考えると、必ずしもそうではないと思えてくる。
ただし、人間には「思い込み」があり、動物には無い。
そこが大きな違いではないか。
そして、消防庁ホームページには、同種の言い伝えが多数集められていて興味深いとある。
たとえば、福井県の「大雪の年はクマが里に出てくる」、宮崎県の「モグラが騒ぐと台風が来る」、富山県などの「カメムシが大量発生した年は大雪」など。
■『防災に関わる「言い伝え」MAP』
「筆洗」で紹介している消防庁のサイトは、恐らくここのことだろうというところを、私は以前から知っていた。
『防災に関わる「言い伝え」MAP』だ。
これは、防災に関する言い伝えを収集してネット上で公開している資料に基づいて、全国マップを作成したもの。
よく消防庁がこのようなサイトを作ったものだと、感心する。
ただし、2年半前には存在した消防庁のサイトが、今はなくなっている。
ただし、その元となったデータベース『全国災害伝承情報』は残っていて、PDF形式でダウンロードできる。
下記の『全国災害伝承情報』の『2. 防災に関わる「言い伝え」 』でPDFを閲覧できる。
■先人の貴重な知識データベース
上記資料から、いくつかの言い伝えをピックアップしてみる。
・宮城県・南三陸町:「異常な引潮 津波の用心」
・宮城県・女川町:「大地震が来たら、高台に逃げろ」
・宮城県・仙台市:「一度逃げたなら1~2時間はまて」
・東京・墨田区:「地震のときは表戸を開けろ」
・徳島県・海陽町:「大地震のあと、津波が来襲すると思え。津波の来襲前に海水は必ずひくとは限らない」
墨田区の伝承は、いかにも東京らしい。
「木造家屋は揺れが激しいと家屋が歪み、戸の開閉が出来なくなることの教訓」との短い解説が付いている。
海陽町の伝承は、「海水が引いたら津波の前兆」と例外も含めていて、一歩先を行っている。
このような言い伝えは、あまり固定的に覚えても例外に対処できなくなるのが難点だろう。
また、このような伝承類は迷信的な要素が含まれていることもあるが、消防庁の資料では、さすがにそのような例は除いているのかもしれない。
■動物の宏観異常現象
私は地震前兆研究家として、特に動物の異常行動の事例を数多く収集・研究している。
たとえば、冒頭に挙げた「赤とんぼ群れ出(い)ずるは地震の兆し」は、前兆現象として妥当かどうか考えてみる。
中国で作られた地震前兆現象を集めた啓蒙的な歌では、「トンボ群れ飛ぶ、同じ向き」という歌詞がある。
もしこれが本当だとすれば、魚の例と同様に、ある方向を向いた時に「体感」が弱まることをトンボたちが「学習」して、そのような集団行動を取るのだろうか。
1976年7月28日に中国河北省で起きた唐山地震(M7.8)では、唐山の南方の天津の海上で、地震の3日前に多くのトンボが船の窓や帆柱などにとまっていたという。
赤トンボの群れは秋の風物詩であり、必ずしも大地震の前兆とはいえないということは、言うまでもない。
次の「ヘビ、藪(やぶ)に集まるときは地震あり」について。
大地震の前に実際にヘビが藪に集まった事例を知らず、本当かどうかわからない。
それよりも地震前兆として圧倒的に多いのが、冬眠から目覚めるというケースだ。
1975年2月の中国遼寧省の海城地震(Mw7.0、犠牲者1,300人)では、1ヶ月半前に冬眠中のヘビが穴から出てきたという。
前年12月中旬には、冬眠中のヘビが穴から出てきて、雪の上で凍えて硬くなっていた
中国でこのような事例が多いのは、ご存知の通り、過去に国家規模でそのような事例を収集し、地震予知に役立てようとしていたためだ。
■トンボの大群
■セミの前兆?
■地震・津波だけではない言い伝え
前述の「筆洗」では、地震や津波だけでなく、他の災害に関する言い伝えもあるようだ。
たとえば、宮崎県の「モグラが騒ぐと台風が来る」など。
こうしたことは、その地域固有で見られるものもあるかもしれない。
「猫が顔を洗うと雨が降る」といった諺もあるが、これは本当だろうか。
これは、池谷元伺大阪大名誉教授の『地震の前、なぜ動物は騒ぐのか』(日本放送出版協会)によると、雷雲の接近や雷によって生じる電磁波電場でネコの目に電流が流れるから、そのような動作になるのだろうという。
このように、人々が迷信だと感じる諺のたぐいにも、実は科学的な根拠がある場合もあるということだ。
このような、科学的根拠があるものと迷信的なものを選り分けることが、私の仕事の一つだろう。
そういう意味では、『防災に関わる「言い伝え」』の内容をじっくり吟味してみることにしたい。
…ということがだいぶ以前から課題になっていたが、まだ手を付けられていない。
※防水バッグに入った防災セット。
全体の評価は高いが「コンパクト」なところが評価が分かれるところ。